佐野万次郎くんの話

 あけましておめでとうございます。綿谷です。本年ものんびり創作をしていこうと思いますので、何とぞよろしくお願いいたします。

 正月休み、何をしていたんだろう……。なんだかほとんどの時間を姪と遊んで寝てばっかりしていたような気がします。ただ、年末に自分の誕生日があって、そこで幼馴染二人+幼馴染の旦那さんとご飯を食べるなどをしたのでめちゃくちゃ元気になりました。親友と話すとありえないくらい元気出る。あと鮮度の高い惚気をありがとうございました。遅ればせながらこちらで御礼申し上げます。俺は三度の飯より人の惚気が好きじゃ。

 あと正月休み中に自分の中で衝撃があったことといえば、『東京卍リベンジャーズ』との出会いだろうなあと思います。私はよくアマプラとディズニープラスを徘徊して映画を観るのが好きなのですが、毎回おすすめに出てくるわけですよ、東京卍リベンジャーズが。巷で話題の東リベが。
 で、深夜にうっかり観たわけです。十二話まで。あまりの面白さに一気に十二話まで観て、次の日にアニメ一期を観終えました。完全に放心。放心しながら、更に翌日漫画を買いに本屋へとくり出しました。そんなこんなで年末年始に最新刊まで一気読みをしたのですが、こんな面白い漫画が今まさに連載中だとはつゆ知らず、本当に出会えてよかったです。16~25巻を読み返しては放心してを延々とくり返しているせいで寝不足です。でもこの感じ、なんだかちょっと久しぶりなので楽しい。
 と、いうわけで新年早々東リベの話をしたいなあと思って今こうしてブログを書いています。東リベというよりはマイキーこと佐野万次郎くんの話。なるべくネタバレをしないように気を付けるのですが、何を言ってもネタバレになりそうなところがあるのでご自衛いただけますと幸いです。

 さて、そもそも東リベなのですが、正直一話を観た時点ではまだあまりピンと来ていなくて、でも視聴を続けてみようと思った理由が「橘直人の顔面があまりにもタイプだった」に尽きます。理由がほんとうに現金なんですけど、ナオトのビジュアルがまじで好み。で、まあナオトの顔に釣られてホイホイ観ていたら出てくるわけです。天上天下唯我独尊男無敵のマイキーこと佐野万次郎くんが。
 最初の印象としては「なんかすごいやつ出てきたな」程度だったんですが、でもアニメの序盤でマイキーくんがタケミっちと二人乗りしながら、タケミっちは死んだ兄にちょっと似ている、というようなことを笑って言うわけです。ここですでに私のマイキーくんへの印象は「なんかすごいやつ」から「おそらく大好きだった兄が亡くなっている弟」というような印象に変わりました。そしてこの辺りから私はマイキーくんのことを自分の弟と錯覚し始めます。思いっきり末っ子なので人生で弟がいたことなどないのに。ホラーだと思って読んでください。
 作中でも無敵と謳われているように、東卍総長のマイキーくんは喧嘩がべらぼうに強くて負け知らずです。マイキーくんが声を上げれば隊員は奮い立ち、マイキーくんが後ろに立っていれば安心して背中を任せられる、「この人がいれば負けない」「この人が来たからもう大丈夫」と反射的に感じてしまうカリスマ性がマイキーくんにはあります。私自身、実際漫画を読んでいるとき、タケミっちのピンチにマイキーくんのバブの音が聞こえると「勝ったな」と安堵してしまうようなところがあります。稀代の求心力を持ち、いつでも真っ直ぐ前を向いて東卍を引っ張るマイキーくん。彼や東卍のメンバーを見ていると忘れがちですが、他の主な隊員と同じように、マイキーくんもまだ中学生です。
 中学生? その事実を再確認するたび、頭を抱えたい気持ちになる。
 漫画を読んでいると感じるのが、マイキーの決断の根っこにはいつも「友だちへの想い」があって、彼は友人のためなら22巻のような決断を下すこともできるのだろうと思います。だけど中学生です。自分の記憶では、中学生の頃はほとんど自我なんかないのに、どこか暴れたいような隠れたいような感情が内側を行き来していて、物事の力加減がまだよく分からずに人を傷つけてしまうことも多いのに、傷付けられると死にたくなるほど深い傷を負うような、名状しがたい多感な時期だったふうに感じます。
 マイキーくんは総長なのでいつも自信ありげな表情をし、震えることもなくどっしりとその場に立ったり座ったりしています。けれど彼は友だちや家族のことが大好きで、その人たちが危機に陥れば動揺もするし不安にもなっていました。誰にも見えないところで。
 マイキーくんはものすごく強いです。でも、たぶん、それと同じくらい弱くもあります。
 彼がお兄さんを失ったのも、そう遠い昔のことではありません。経緯を考えると、自分を責めた回数だって決して少なくはないはずです。ネタバレといえばネタバレになってしまうのかもしれませんが、マイキーくんがぼろっちいタオルケットをいつまでも捨てられずに一緒に寝ていることを知ったとき、私は自分でもびっくりするくらい泣いてしまいました。恥ずかしながら自分も昔っからタオルを握り締めていないと眠れないたちなので、ほんのちょっとかもしれないけれど、ぼろのタオルケットを握り締めて眠るマイキーくんの気持ちは分かります。
 マイキーくんは、タオルケット相手にしか「助けて」と言えない。彼は自分自身に頓着がないように見えて、傷付けられれば傷付くし、たいせつなものを失えばどん底まで悲しみます。マイキーくんはきっと、ただ友だちと馬鹿やって、何歳になってもその友だちや家族と一緒に笑ってたいだけなんだと思う。そんな友だち想いで家族想いの中学生男子の黒い瞳の中に、どれほどの葛藤や後悔があって、繊細な心の機微があるのかを考えると、一刻も早くマイキーくんをギュッとしたくなるわけです。姉なので。病気。
 もう一億回言われているだろうし、月並みな言葉すぎるけど、マイキーくんには幸せになってほしい。もちろん他のみんなも。できればタケミっちが救うと言ってくれた彼や彼も。マイキーくんやタケミっちを傷付けた彼や彼も。心の中がぐちゃぐちゃになって、何が正解か分からなくて行き場がなくなってしまった彼らのこと、許せないけど憎むことはできないので。そういう漫画だなあと思う。

 東リベ、ここ数年読んだ漫画の中でもかなり大きな「面白い」という衝撃を私の中に残していった作品なのですが、自分がこの漫画を面白いと感じる部分は、人間のいろんな色や形をした感情がぶつかり合って混ざりあったり絡み合ったりしているさまと、そこから生まれる思想や思惑が抗争や事件を勃発させて、それを経ることによって小さな謎がいくつか解かれて、大きなひとつの謎を解明する鍵になっていく、というところだなあと思います。不良の友情×ラブストーリー×ミステリ・サスペンス要素=不良最高! の図を作り出している……不良最高!

 そんなこんなでマイキーくんに思いを馳せながら真面目に眠れない毎日を過ごしている綿谷です。近く原画展が開催されるようなので、時間があるときに足を運びたい。原画展のイラストの場地が格好良すぎて気が狂いそうだ。場地、好きすぎる。場地かっけえな~と心の中のマイキーくんに呼び掛ける日々です。マイキーくんが幸せになるまで、私は何度でもイマジナリー・マイキーくんに話しかけるぞ。狂気。

 というわけで年始から気がおかしい綿谷でした。くり返しになりますが、本年も何とぞよろしくお願いいたします。マイキーくんに幸あれ。